仮想通貨市場の未来は? トランプ氏が2024年米大統領選で再選
トランプ氏の変化
現在トランプ氏は仮想通貨に非常に肯定的な見方を示していますが、以前は強く批判していました。過去には仮想通貨について、以下のように述べています。
- お金ではなく価格が不安定な上、資産価値の裏付けもないに等しい(2019年)
- 規制の整っていない仮想通貨は、麻薬取引や非合法取引など反社会的活動を助長する可能性がある(2019年)
- ビットコインは詐欺のようだ(2021年)
- ビットコインは米ドルと競合する通貨のようで好きになれない(2021年)
- ビットコインは米ドルやその重要性に影響を与える存在で、厳しく規制されるべき(2021年)
その後、トランプ氏の考え方に変化の兆しが見えるようになったのは2024年に入ってからです。24年2月にトランプ氏は「おそらく何らかの規制を行う必要はあるだろうが、多くの人がビットコインを受け入れている。ビットコインと折り合いをつけていくことはできるだろう」と話しました。
また、24年3月には「今は仮想通貨を楽しむこともある」と発言。そして、ビットコインを購入することはないと否定したものの、決済手段として人々に仮想通貨の選択肢を与えることを示唆しました。
こういった変化については、自身でNFT(非代替性トークン)を販売するようになったことが影響した可能性があります。トランプ氏は22年12月に自身初となるNFTコレクションを発売したことを発表。24年7月には、ビットコインをテーマにした限定版スニーカーを販売し、2時間で完売させました。
出典:gettrumpsneakers
また、大統領の立場でなくなったため、政策ではない個人的な感想を話せることになったことが変化の理由なのかもしれません。
この後、トランプ氏が明確に仮想通貨を支持することを表明するようになったのは24年5月。この時トランプ氏は選挙集会で、「不透明かつ過度な規制を恐れて多くの仮想通貨起業家は米国を離れていっている」との声に対し、「それは現政権の敵対視が原因で、私はそれを止めたい。彼らが米国で安心して事業をできるように、仮想通貨技術を受け入れる必要はある」と返答しました。
その後は、以下のような行動をとっています。
- 仮想通貨による政治献金の受付を開始した
- ビットコインが政府債務の解決にどのように役立つかに関心を示した
- マイニング企業のCEOらと面会した
なお、「ブルームバーグ」の報道によれば、トランプ氏にNFT販売を持ちかけたのはビル・ザンカー氏。ザンカー氏はトランプ氏とともに『大富豪トランプのでっかく考えて、でっかく儲けろ(Think Big and Kick Ass in Business and Life)』という書籍を執筆したことで知られています。
ブルームバーグのインタビューでザンカー氏は「トランプ氏はNFT販売に触発され、仮想通貨について知るため時間を割き、イーサリアム(ETH)のブロックチェーンの仕組みなどを理解するために多くの質問をしてきた」と語りました。
共和党の方針
そして、24年7月には共和党が、トランプ氏の言動を裏付けるように、仮想通貨を擁護していく方針を政策綱領で示しました。この時に共和党は「民主党が行なってきた違法で非アメリカ的な仮想通貨への取り締まりを終わらせる」と宣言しています。
他にも仮想通貨について、以下のことに取り組むと説明しました。
- ビットコインをマイニングする権利を保護する
- デジタル資産をセルフカストディで保有できるようにする
- 政府の監視や管理なく、自由に取引できるようする
トランプ氏や共和党の方針は選挙前から、仮想通貨に限らず金融市場で意識されるようになりました。暗殺未遂事件の振る舞いでトランプ氏が強さを見せたことで、この意識は高まり、金融市場で価格に織り込まれるようになっています。
こういった政策に応じて投資を行うことは「トランプトレード」と呼ばれています。具体的には、ビットコイン価格や米マイニング企業の株価が一時的に上昇するといった影響が見られました。
トランプ氏が、副大統領候補に仮想通貨肯定派のJ・D・バンス議員を選出したことも仮想通貨市場には追い風になっています。トランプ氏が再選を果たしたことで、米国で仮想通貨企業の株式上場やアルトコインのETF承認が進む可能性があるとの見方もあります。
具体的には、トランプ氏は選挙活動で以下の「10の約束」をしました。
- 米国を仮想通貨の中心地にする
- 証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長を解任する
- ビットコインを戦略的に備蓄する
- 米政府のビットコインを売却しないようする
- CBDCの開発を中止する
- 包括的な仮想通貨規制を提案する
- 就任後1時間以内に仮想通貨に対する反対意見をなくす
- 政府による仮想通貨業界への違法な取り締まりを終わらせる
- 米債務解消にビットコイン活用を推奨する
- シルクロードのロス・ウルブリヒト創設者を減刑する
大統領選と同時に行われた米連邦議会選は、本記事執筆時点で共和党が上院の過半数を奪還しており、下院は結果は確定していませんが、共和党がリードしています。また、非営利組織「Stand With Crypto」の統計によれば、仮想通貨肯定派の当選が否定派を上回っているため、仮想通貨に好意的な規制整備が進めやすくなる可能性があります。
その他に、直接的な仮想通貨推進政策以外でも、トランプ氏再選によって財政赤字の拡大、インフレの再燃、ドルの購買力低下が進むとの見方があり、こういった状況によって、仮想通貨に資金を逃避させる動きがみられる可能性も考えられます。
一方で、トランプ氏が就任後に仮想通貨に肯定的な政策を実行に移すかは不透明です。選挙活動では得票や献金を優先していて、当選後に言動が変わる可能性があるという声も上がっているため、今後の動向を慎重に見守る必要があります。
現在の仮想通貨規制
冒頭で述べた通り、ジョー・バイデン政権下の現在、米国には州単位の仮想通貨規制はありますが、国家レベルではまだルールが整備されていません。関連する法案は審議が進められていますが、まだ法制化されていないのが現状です。こういった現状が「不透明かつ過度な規制を恐れて多くの仮想通貨起業家は米国を離れていっている」との見方につながっています。
こういった見方を生む最も大きな要因は、SECによる規制です。SECに対しては、事前に明確なルールを提示することなく法的執行措置を通じて仮想通貨を規制していることに、批判的な声が多く上がっています。
SECはこれまで、コインベースやバイナンス、リップル社らの著名企業も証券法違反で立て続けに提訴しており、こういった執行措置は仮想通貨市場にも大きな影響を与えました。
一方でゲンスラー氏は、仮想通貨規制は明確であると主張しており、何が有価証券と判断されるのかについてもガイドラインを示していると述べています。こういった認識のズレをなくすために、国家レベルの明確な法律が必要であるとの声が多く上がりました。また、実際の裁判でSECの主張が全て認められているわけでもありません。
トランプ氏の就任後は、仮想通貨に好意的な規制が整備されると期待する声が多く上がっています。
仮想通貨業界の反応
本節では、トランプ氏や共和党に対する仮想通貨業界の反応を紹介します。
仮想通貨に肯定的な政策をトランプ氏が実行に移すかに疑問の声は上がっているものの、同氏や共和党の方針は仮想通貨業界から、おおむね好意的に受け止められています。
期待を反映した行動の1つがトランプ氏への寄付でした。例えば、24年6月には、仮想通貨取引所Geminiの創設者であるキャメロン・ウィンクルボス氏とタイラー・ウィンクルボス氏が総額200万ドル相当のビットコインを寄付し、大統領選でトランプ氏に投票すると宣言しました。
また、著名投資家で億万長者のマーク・キューバン氏は、シリコンバレーがトランプ氏を支持するようになったことに触れ、これはビットコインのためであると意見しました。
一方、これはトランプ氏が仮想通貨擁護の姿勢を打ち出しているからではありません。それよりはむしろ、政権交代が起これば、SECの主要メンバーも必然的に代わるからだと主張しています。そうなれば、仮想通貨ビジネスの運営が今よりも容易になると指摘しました。
他にも、トランプ氏への支持を示唆する投稿をXで行ってきたテスラCEOのイーロン・マスク氏は、バイデン氏が大統領候補から辞退したことを受け、自身のXアカウントのプロフィール写真を「レーザーアイ」に変更しました。
目からレーザー光線を出しているように加工したレーザーアイは、主にビットコインへの支持を示すミームとしても知られており、前強気相場の2021年ごろには、著名人の間で一時期ブームになったこともありました。マスク氏は、SNSへの投稿を通じて仮想通貨の価格を動かすなど、非常に影響力のある人物です。
なお、本記事執筆時点では、マスク氏のプロフィール写真はレーザーアイではなくなっています。
実際にトランプ氏が当選した後も、仮想通貨業界からは歓迎する声が上がりました。「CNBC」の報道によれば、複数のアナリストが「トランプ氏の就任前にビットコインが10万ドルまで上昇する」と予想しているようです。
また、Stand With Cryptoを創設したコインベースのブライアン・アームストロングCEOは議会選の結果も踏まえ、「米国史上最も仮想通貨に肯定的な議会」と評価しました。
注意喚起の声も
一方、こういった動きは仮想通貨領域の総意ではなく、懐疑的な見方も上がっています。
例えば、仮想通貨取引所BitMEXの創業者アーサー・ヘイズ氏は7月に、仮想通貨支持を打ち出すトランプ陣営の戦略を盲信しないように注意喚起しました。仮想通貨コミュニティが資金集めに奔走していることに対して失望を示しています。
また、イーサリアムの共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏も同月、米国の選挙に向け「仮想通貨賛成派」であると主張しているか否かだけで、候補者を選ぶことに対して警告を発しました。
ブテリン氏は、仮想通貨業界では政治活動が活発化しており、仮想通貨に対するスタンスのみで、政党や候補者への支持を判断する動きが高まっていると指摘。このような意思決定方法を容認すると、仮想通貨本来の価値観に反するリスクが高いと主張しています。
他にも、トランプ氏や共和党だけが仮想通貨支持を表明していた時期には注意を促す声も上がりました。それは、世論調査や予測市場でのトランプ氏の支持率低下が、相場の逆風になりうるからです。
また、現政権の民主党候補が勢いづくことで、SECの執行措置が大統領選以降も継続するとの思惑が広がる可能性も指摘されていました。
仮想通貨市場への影響
トランプ氏は暗殺未遂事件後、一部で神格化されるなど、再選に向けた勢いを強めました。「もしトラ」「ほぼトラ」「確トラ」といった言葉も広まり、大統領選当日には、開票速報に合わせて金融市場が大きく変動しました。
こういった状況は仮想通貨相場全体やマイニング企業の株価に追い風になるだけでなく、関連するミームコインの価格を大きく動かす可能性があります。例えば、トランプ氏で言えばイーサリアム基盤の「MAGA」やソラナ基盤のミームコイン「TREMP」、また、民主党の大統領候補カマラ・ハリス氏の「KAMA」銘柄が含まれます。
他にも、米国外の企業にとっては、トランプ氏の再選が逆風になる可能性があります。例えば、バイナンスらの取引所は、ユーザーを米国の取引所に奪われ、マーケットシェアが減少するかもしれません。そうすれば、BNBなどの取引所トークンの価格に影響する可能性があります。
仮想通貨の投資において全てがプラスに働くとは限らないので、幅広く注視する必要があります。
カンファレンス登壇
今回の大統領選で最も注目を集めた動きの1つが、24年7月開催の年次カンファレンス「ビットコイン2024」への登壇です。まず最初にトランプ氏の登壇が決定。その後にハリス氏にも登壇してもらうよう交渉が進められていましたが、結局ハリス氏は登壇しないことが決定しました。
米大統領候補レベルの政治家が、仮想通貨のカンファレンスに登壇するのは史上初めてであり、非常に大きな注目が集まりました。
この時トランプ氏は、大統領再選を果たした場合の方針として、主に以下のような内容を表明しており、上述した10の約束に反映されています。
- 犯罪で摘発した21万BTCを売却せず米国で備蓄する
- ビットコインなどの新技術で中国など他国に負けないようにする
- 就任初日にSECゲンスラー委員長を解任する
- 規制ガイドライン策定のため、仮想通貨政策の諮問委員会を任命する
- ステーブルコインの開発支援を検討する
- 米国をビットコイン採掘大国にする
- 中央銀行デジタル通貨(CBDC)は発行しない
また、このカンファレンスでは共和党のシンシア・ルミス議員も、ビットコインを備蓄するのと同様の内容の法案を作成することを発表。その後、実際に法案は提出されました。
ルミス氏の法案がトランプ氏の政策と大きく異なる点は、すでに米国が保有するビットコインを備蓄するのではなく、一定期間内に100万BTCを購入し、ビットコイン総供給量の約5%を取得することを定めていることです。
なお、トランプ氏の今回の登壇は、国内の一般メディアが報じるなど日本からも関心が集まりました。今回の登壇を受け、国民民主党代表の玉木雄一郎氏は以下のようにコメントしています。